「人類最後の日」を新聞にした
「巨大隕石が落下して人類滅亡」
それは人類が長らく恐れ、低い確率だが現実にも起こりうる大アクシデントだ。
隕石衝突がテーマのSFは世界に数え切れないほどあるし、日本でもすでに1926年の怪彗星(三井伸衛/ほるぷ出版)で、彗星が衝突して“地球最後の日”を迎える物語があった。
2013年にも約17mの隕石がロシアで落下。衝撃波は東京都の7倍もの面積に及び、4000棟以上の建造物を破壊し、1500名の重軽傷者が出た。
- そんな事態が、もし起こったらどうなる?
- その様子を、生き生きと克明に表せるものこそ「新聞」では?
と思い、「人類最後の日の新聞」を作ってみた。
だが、知識ゼロから新聞を作る作業量はとんでもなかった。苦労のオンパレード状態で8月下旬をほぼ丸々つぶすほど。
しかし、まずはモノを見てほしい。短い夏を浪費した結果がこれだ。
ここにひと夏が集約されていると思ったら、いろいろな意味で泣きたくなる。
ここから「人類滅亡の日を描く新聞」を読んでいただくが、ふつうに書けば最大級に重くなりそうな話だ。
だから、日々人生に疲れている僕のような人々にさらなるダメージを与えないよう、ネタ要素満載なのでついてきてほしい。
まずは新聞用語でいう「トップ」。
大事件が起こったときはこのようなド迫力のレイアウトがなされる。果たしてこれを書いている記者は何を思うだろうか。
さらに題字の部分はこちら。
そして、見出しと本文がこれ。
文章を読めばわかるように、「こんな感じ」で展開していく。肩関節がはずれるほどに、肩の力を抜いてほしい。
ちなみに恐竜を絶滅させた直径10キロほどの小惑星ならば、核兵器を複数発迎撃すれば衝突を逃れられるが、直径が40キロを超えると、現在の技術では衝突は阻止できない。
その直径10キロほどの隕石でも、落下地点から1,000キロ以内にいたら岩石の破片による即死か、数秒以内に火球によって死んでしまうといわれる。つまり90倍の大きさの隕石なら、三又又三どころか日本全国の人々がおそらく瞬殺だ。
その後も地球全体が灼熱の岩石蒸気に包まれ、すべての海水が蒸発するなど、とんでもない修羅の大地になると聞く。生き残った坂田師匠のサバイバル能力が問われる。
富豪たちは世界の終末に備えて豪華な核シェルターを用意している。地球を脱出しようとする者もいるはずで、その筆頭は2050年までに火星に100万人を送ろうとしているイーロン・マスクだろう。
さらに、サイド部分のヘッドライン。
gooランキングの「地球最後の日に何したい?」でも、4位は「貯めていたお金をパーッと使う」だった。全財産を競馬に使う人は続出するだろう。
最期の日にも時事川柳。新聞ネタコーナーは根強いネタ職人たちがいるので、ホントに最後まで送ってくる者は存在するかもしれない。
続いては、左側の文章ブロックを見てみよう。
このままだとスマホなどでは読みづらいので、ひと記事ごとに区切っていく。
核シェルターに関しては、「東京メトロ国会議事堂駅は議員たちのシェルターになっている」など、その手の噂は多い。人々が安全な場所を求めて殺到する可能性は大きいだろう。
「寝ている間に(すべてが)終わってほしい」は実際にアンケートで目立った答えで、音楽家のヒャダインもこのタイプのようだ。なお、2013年のマイナビニュースによる「地球最後の日、何をして過ごすかランキング」で男女1位を獲得したのが「家族と過ごす」。帰省ラッシュは必至である。
「命の危機が迫った際に婚姻が増える」のはロシアの侵攻を受けたウクライナもそうで、首都キーウでは一時婚姻数が8倍にもなった。結婚したい人は人類滅亡までに恋人を作ろう。
ここで、サイゼリヤ……ではなくサイゼタヤからの新聞広告である。
続いては「ヤケ食い・ヤケ酒続出」のニュースだ。
アンケートからは、「最後にうまいものを食べたい」「酒を飲みたい」との声が多かった。死ぬ前に酒を飲む意味では、特攻隊にも出撃前に「別杯」というみんなで日本酒を飲む習慣があったが、どこか重なるものもあるのだろうか。
「休業する店舗も多く」とあるが、2017年のマイナビの調査によると、世界最後の日に職場で過ごしたい人はわずか6%。大多数の店舗は開かないだろう。自炊しない限りは、どん兵衛が最後の晩餐になる可能性も大ありだ。
なお、最後の日となったエンタメ界は、「最後だから出し惜しみせずに見せる」ことがあるかもしれない。
実際にタモリは2007年の笑っていいとも!内で「(地球最後の日は)全裸でいいともやる」と発言している。終末のとき、それは完全なる放送事故が拝める日だ。
下段は、新聞一面によくある書籍広告コーナー。
これは正直、「純然たる悪ノリ」で作らせてもらった。2つずつ拡大して見てもらおう。
ここまでだいたいの項目を見てきたが、新聞といえばつきものの「テレビ欄」も作ってみた。これだ。
各局、24時までに巨大隕石が落下することを想定して、一斉に放送休止する体制となっている。
このテレビ欄は先ほどの新聞以上に、読んでも本当に何の含蓄もないから覚悟してほしい。
一つずつ見ていこう。まずはNHK……ならぬNHJ。
さすがはNHJ、受信料による豊富な制作費を活かして、壮大な6時間生特番を放送する。対するEテレは、ほぼ通常編成だが、年またぎならぬ“命またぎ”には将棋トーナメントを持ってきた。
次は民放3社。視聴率No.1の日本テレビ……いや、日本一テレビは何を放送するのか。
日本一テレビは最後まで王者の余裕か、通常編成。テレビ夕日は局のカラー通り特番で勝負だ。TBNテレビはなつかしのクイズ番組の復活で対抗している。
テレビ大東京は看板番組でしっかり勝負するほか、得意の花火大会をぶつけてきた。ブジテレビの最後の土曜プレミアムは、いいとも最終回以来の夢の共演が実現している。
それにしても「人類最後の日に放送が可能か」だが、テレビマンはワーカーホリック気味の人が多いため、何とか実現できてしまいそうな気もちょっとする。
再び、新聞一面に戻ろう。
まだ見ていない箇所があるので、最後に目を通しておこう。
おなじみ、天気予報コーナーである。
天気予報士もこうして最後まで職務を全うし、ラストメッセージをくれるかもしれない。
最後は新聞一面には欠かせない、コラムコーナーだ。次の世界に旅立つ人々に、こんなメッセージが送られるかも。
今回長時間「人類最後の日の新聞づくり」に没頭する中で、「ホントに自分がその日を迎えたとき」の感覚を、ほんの少しだけ追体験できたような気がした。
あっという間にジジイ、ババアになってしまう僕らの人生は、「ちょっとだけ間に合わない」ことばかり。
隕石の襲来に限らず、「最後の日が来たとき」のために、後悔だけはしないように生きようと思ったね。
ところでこの「人類最後の日の新聞」だが、なんと次の日の号が発行されていた。
(最新の研究によれば、今後1,000年で人類を脅かすほどの巨大隕石が降ってくる可能性は、極めて低いと考えられているので安心してください)